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思い出エピソード

トウキョウX開発秘話

インタビュー

「TOKYO X」
東京都農林水産振興財団 青梅畜産センター
トウキョウX生産技術アドバイザー
TOKYO-X生産組合顧問
農学博士 兵頭 勲 氏

兵頭 勲 氏の写真

北京黒豚との出会いが開発のきっかけになった、未知の豚肉

 「TOKYO X」、皆さん召し上がられたことがありますか?名前は聞いたことがあるけど、という方も多いかもしれません。「トウキョウX」は、東京都で開発された豚で、精肉では「TOKYO X」というブランド名で売り場に並びます。
 「トウキョウX」開発のきっかけは、1986年に私が畜産指導で中国を訪れたときの「北京黒豚」との出会いでした。ある晩、ご馳走になった豚肉が、やわらかくて噛み応えも良く、キメ細かく、味が良い、とにかく食べたことの無い豚肉だったのです。精肉を見せていただき、そのきれいな色にも驚きました。その時の衝撃は今でも忘れられません。旅行などで外国に行くと、その土地の豚肉を食べていましたが、こんな豚肉は初めてでした。翌日、さっそく「北京黒豚」の生体を見に行きました。この「北京黒豚」を使って、今までに無いようなおいしい豚肉を日本の食卓に届けたい、ここから「トウキョウX」への挑戦が始まりました。
 ところで、この「トウキョウX」という名前ですが、実は開発を始めるときに当時の経理係長が「未知の豚肉を作るんだね。Xだね」と言い、開発中もみんなで「X」と呼んでいたのです。それがそのまま名前に使われています。精肉としてのブランド名は、よりインパクトの強い「TOKYO X」というアルファベットの表記にしました。

北京市の北郊農場の北京黒豚の写真 北京市の北郊農場の北京黒豚
北京市食肉公司にて北京黒豚の枝肉とカット肉の写真 北京市食肉公司にて北京黒豚の枝肉とカット肉

赤身の部分にサシが5%以上入った、これまでに無い豚肉

 「トウキョウX」は、「北京黒豚」、「バークシャー」、「デュロック」の3品種を用いて系統造成を行い、それぞれの特徴を併せ持つよう改良されたまったく新しい豚です。「トウキョウX」の開発は1990年から本格的に着手しましたが、実はこの数年前、厳しいことで有名な育種の研修に参加し(ある人に言わせるとこの研修の3カ月間は大学の4年間より勉強したというくらい)、ここで3種類の豚を掛け合わせるロジックがあることを知りました。このロジックが「トウキョウX」の誕生に導いてくれたのです。「トウキョウX」の開発時にとにかくこだわったのは“おいしさ”です。牛肉のおいしさの代名詞として、よく「サシが入った」という言い方をすると思います。これは赤身の部分に細かく脂が入り込んだ状態を言うのですが、豚肉にはそうしたものはありませんでした。「北京黒豚」と掛け合わせ、肉のキメが細かく、サシが入った豚肉を創りあげるために、黒豚の産地である九州を回り「バークシャー」と「デュロック」を買い付けました。その中からさらに良い豚を選抜し、「バークシャー」と「デュロック」、「バークシャー」と「北京黒豚」、「北京黒豚」と「デュロック」という組み合わせで雌雄を変えて交雑し、さらにその中からキメが細かくサシの多く入った豚を選び、掛け合わせていきました。開発に7年を費やし、それまで多くても3%くらいだったサシの割合を最終的には平均5%、多いものでは7%まで上げることができました。7年という開発期間は、新しい品種を作る上では決して長い期間ではなく、順調に改良が進んだと言えると思います。「トウキョウX」は日本初の合成系統豚として1997年に認定されました。3品種の合成による系統造成は、いまも「トウキョウX」が唯一です。

北京黒豚 (オス)の写真 北京黒豚 (オス)
北京黒豚 (メス)の写真 北京黒豚 (メス)

東京という環境にマッチした「トウキョウX」

 現在、東京では6軒の畜産農家が「トウキョウX」を生産しています。養豚で生計を立てようと思うと何百頭も飼育しなければなりません。しかし「トウキョウX」は取引価格が高いため、数十頭でも採算が取れます。飼育頭数が少なければ、広大な土地が無くても飼育が可能となるため、まさに東京という環境にマッチした豚です。ある畜産農家の方から「『トウキョウX』のおかげで、私たちのような夫婦二人で営んでいる小規模畜産農家でも養豚を続けることができました」と言われたときは、思わず熱いものがこみ上げました。現在は年間に1万頭ほど出荷され、デパートや一部スーパーに置かれています。ある大手総合スーパーが区部に出店した際には、「必ず『トウキョウX』の取扱いを決めてこい」という会社の命を受け、担当者の方がこちらに駆けつけてくださいました。まだまだ「買いたいのに買えない」という消費者の声も多いため、生産地域を近隣県にも広げ、生産量を増やしていきました。食べていただいた消費者の声を聞くと、ほとんどの方が「味は最高」と、そのおいしさには定評をいただいています。一部、給食にも使われているのですが、子どもたちからも「おいしい豚肉」と好評です。

TOKYO X肉 サシの入ったロース断面の写真 TOKYO X肉 サシの入ったロース断面
畜産試験場にて2000年11月撮影の写真 畜産試験場にて2000年11月撮影

左:旧東京都畜産試験場 研究員 渡辺 彬 氏
中央:鹿児島県畜産試験場 川井田 博 氏(豚の研究員)(鹿児島県にバークシャー、デュロックの買い付け等でお世話になった方です。)
右:兵頭 勲 氏

畜産試験場飼養第二室前にて1974年撮影の写真 畜産試験場飼養第二室前にて1974年撮影

左上:兵頭 勲 氏


日本人の寿命を引き上げた豚肉、今後もより良いものを産み出していきたい

 豚肉は、おいしさはもちろん、供給量も多く値段も手頃で、栄養価が高く良質なタンパク質やビタミンB1が多く含まれています。戦後、日本人の食生活が変化し、食肉の摂取量が増えたことで、平均寿命が飛躍的に延びました。豚肉は日本の食肉消費量第1位であり、日本人の高寿命化には豚肉が大きく寄与していると言われています。豚肉だけでなく、肉や卵、牛乳などの畜産物は私たちの身体を作る基本となる食物であり、今後も日本人の健康のために、おいしくて安全・安心な畜産物を産み出していきたいと考えています。


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