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思い出プロジェクト

細密画の描かれた当時の状況を探る

はじめに

 東京都農林総合研究センター(旧東京都農業試験場)には、明治から昭和中期にかけて描かれた900点に及ぶ農作物の細密画が所蔵されています。
それら細密画は、東京府立農事試験場(明治33年~昭和18年)、東京都農事試験場(昭和18年~昭和24年)時代に、数値表現できない農作物の形状や色合いなどを、実物大で正確に科学的見地から表現する手段として描かれました。細密画は正確性・保存性の低い当時の写真に代わる有効な手段であったので、農業関係者にとって農作物の形状や色合いなどの特徴を知る貴重な情報源でした。
 細密画の中には、実物は途絶えてしまい、画の中でしか当時の姿がわからない品種や農作物も含まれています。
 明治大正期から昭和初期にかけて試験栽培された漬物用の不結球白菜品種「三河島菜(ミカワシマナ)」(図1)、「曲金菜(マガリカネナ)」(図2)、と結球白菜品種「包頭蓮白菜(ホウトウレンハクサイ)」(図3)をご紹介します。これらのうち「三河島菜」と「曲金菜」の2品種の栽培面積は大正前期頃から減少していきました。一方、「包頭蓮白菜」は東京府立農事試験場によって大正13(1924)年より純系分離されて昭和4(1929)年には原種配布できるようになりました。この原種は種苗会では「東京包頭蓮白菜」と称され流通しました。

細密画「三河島菜」の写真

図1 細密画「三河島菜」

細密画「曲金菜」の写真

図2 細密画「曲金菜」

細密画「包頭蓮白菜」の写真

図3 細密画「包頭蓮白菜」



細密画と試験研究との関係

農事試験成績畧報の写真1

図4 農事試験成績畧報

農事試験成績畧報の写真2

 細密画と関連する資料は「宝の山」と言われる立川庁舎本館地下書庫にあります。宝の山の意味は歴史的に価値のある資料が一杯あるということです。試験研究に関係する資料は、農事試験場時代の試験成績と業務記録、委託試験記録などで、古いものでは試験場設立翌年の明治34年9月に発行(図4)されています。これらの資料は昭和中期までの間に100冊を超え、さらに当時の月刊農業雑誌が数種あります。


資料を整理するために地下書庫で考えたこと

写生手引の写真1

図5 写生手引

写生手引の写真2

 900点にも及ぶ細密画の制作は、試験場との間で契約が結ばれた専属の絵師(画家)によって描かれたものです。図5に示す『写生手引』の中には、細密画番号と細密画との間に押された契約割印、他方細密画には手引と同じ細密画番号と契約割印の他に東京府立農事試験場印が押印されています。これは試験場が細密画を専属の絵師から受領したことを意味するものと思われます。
 これら手引に残る細密画を描いたのは誰なのか、気になるところです。


3人の専属絵師の存在

 図6に示す落款のある細密画が151点あります。この印影は、吉田と読めますが定かではありません。落款は絵師が細密画の制作後に残したものと思われます。
 漢字あるいは大文字と小文字を交えた英語表記のサインが残されている細密画があります(図7)。そのサインは水島南平です。水島は昭和28年北隆館発行の『牧野富太郎著、牧野日本植物図鑑、改訂版』にも画工として植物画を描いた記録が残されています。水島が描いた植物画は36点あり、サクラ、フリージア、スイレン、シクラメンの4種です。その他に、家畜の配付事業をしていた東京府種畜場で飼育されていたニワトリの動物画も多数描き残されています。
 図8の細密画には山村とサインがあります。山村が描いた細密画には制作年月日が記され、一番古いものが昭和17(1942)年4月、一番新しいものが昭和20(1945)年12月1日で、その間79点の細密画が残されています。山村とは誰かは未だわかっていません。

東京都農林総合研究センターが所蔵する細密画は、長きにわたる時代を経て、いまも数多くの謎を秘めています。これらの謎の解明も含めて、研究成果等を紹介する季刊誌『農総研だより』では細密画に関する紹介記事を掲載しています。(ホームページでご覧いただけます。『農総研だより120周年特別号』ほかhttps://www.tokyo-aff.or.jp/site/center/1097.html

落款のある細密画

図6 落款のある細密画

水島が描いたフリージアの写真

図7 水島が描いたフリージア

山村が描いた馬込半白(左)と馬込白(右)

図8 山村が描いた馬込半白(左)と馬込白(右)




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